ヘアセットが得意で、カットには苦手意識があった
――いまは「ボブ特化」の美容師さんとして活躍中ですが、もともとボブヘアのカットが好きだったのですか?
いえ。じつは専門学校の頃から左右線対象に切るのが得意ではなくて、カットには苦手意識があったんです(笑)。むしろ、コテを使ったり編み込みしたりするヘアセットの方がずっと好きでした。

同じヘアアレンジでも、お客さまの年齢やシーンに合わせて雰囲気を変えるのが面白いんですよね。
たとえば、大人の女性だとクラシックな感じのシニヨンスタイルがメインになりますが、編み込みをあしらう場合は細かく編むのではなくて緩めに仕上げることでかなり印象が変わります。
あとは、三つ編みの代わりにロープ編みにするとか巻き方を変えるとか、工夫してお客さまに似合わせていくのが楽しいんですよね。

――ヘアセットの予約が入ると事前に綿密な準備をするのですか?
いえ。ほとんどの場合、事前に細かいすり合わせなどはやらないです。当日、お客さまのリクエストを伺ったらその場でイメージしてアレンジを設計しています。
言語化するのは難しいんですけど、そこがヘアセットの面白さでもあるのかなと思いますし、僕はそういう感覚的な仕事の方が得意なのかなと思っているんです。

――そこからどうしてボブに特化していったのでしょうか?
トレンドもあって、ボブのオーダーが多かったことも理由のひとつですが、やっているうちにボブの奥深さに惹かれてどんどん好きになっていきました。
ボブは全部の髪を同じ長さに揃えるスタイルなので、ベースとなる型はひとつですが、そこからさらに細かい部分で無限にできること・やるべきことが出てくるんですね。そこが面白いんです。
自分は何もすごくない。運と絆に恵まれただけ

――インスタに動画をあげていこうと思ったのはなぜですか?
同僚の中井に教わったんです。彼とは専門学校の同級生で、ずっと一緒なんです。彼は僕より美容のことをよく知っているし情報も豊富で日頃からいろいろアドバイスをくれるんです。インスタの動画も彼が「ショート特化」で先にやっていたので、僕は「ボブ特化」でいこうと考えたんです。

――では、インスタの投稿の仕方も中井さんから教わったんですか?
最初は、一緒に食事に行ったときに「1日1投稿だけやってみたら?」と軽く言ってくれたんですね。
はじめから完璧を求められたら続かなかったかもしれないんですが、まず1日1投稿やる。次にテキストをつけてみる。文章構成のポイントをおさえる。そのあとハッシュタグをつけてみる。タグの内容を工夫する。
そんなふうに段階を踏んで教えてくれたおかげで、少しずつ成長できたんです。

――永田さんが「ボブ特化」美容師として成功できたのはどうしてだと思いますか?
まだまだ成功できたとは思ってないですが、タイミングだったり運だったり、出会い、そういうものが重なって今があると思っています。自分の力でここまできたと思ったことはほんの少しもありません。
ボブの魅力を引き出す髪色、グレージュとは?

――グレージュってボブに合わせるとおしゃれですよね。あれはグレーとベージュを合わせた色ですか?
仕上がりは、グレーとベージュが合わさったように見えますが、実際にはグレーとベージュのどちらも使っていないケースが多いです。
ハイトーンの方だったらベージュとグレーを合わせて補色を加えれば済む場合もありますが、ブリーチしてない方とか赤みが強めの方にグレーとベージュを合わせてもまったくグレージュにはならないんです。

――では、どうやってあの絶妙な色を出しているのですか?
一般的には主軸に青を使って、補色としてピンクを混ぜたりブラウンをのせたりして調整します。美容師は、もとの髪色とカラーを混ぜる割合で、仕上がりの色味を予想するんです。
もともとの髪色やヘアカラーの履歴などによって、混ぜる色や混率を変えているんですよね。あとは、白髪染めをしている場合は、根元だけ白髪染めして、毛先などのすでに明るめになっているところはファッションカラーというふうに使い分けています。
普遍的なボブの変わる良さと変わらない良さ

――今後、どんなボブがトレンドになると思いますか?
たとえば、ボブでなくてレイヤースタイルなら、ウエイト(丸みの高さ)を置く位置によって印象が変わります。少し前なら、高いところから段を入れるハイレイヤーが人気でしたが、今はウエイトの位置が下がってきました。比較的、ボブに近い感じのショートがトレンドになっています。

これに対してボブは、段を入れずにカットするワンレングスのスタイルなので、あれこれ変えようがないんです。だから、ベースは多分この先もずっと変わらず、普遍的な側面があると言えますね。そこも魅力のひとつではないでしょうか。

――インスタを見ているといろいろなボブがあるように思えますが?
そう見えるかもしれませんが、9.5割はレイヤーなしでベースは同じです。コテで巻いたり、髪色で変化をつけたりしています。そのほかは、お客さまの好みなどに合わせて顔まわりにサイドバングを作ったり、横髪に短めの毛を作ったりします。

あとは、髪の厚みやフォルムの丸みなど、質感調整で若干の違いが出ます。以前は、毛先が丸く入りやすいように、内巻きにしやすいようにカットする重めのボブが多かったんです。それが今は、毛先の厚みを取って量感を少なめにすることで、ストンと落ちるタイトな感じに仕上げることが多くなってきていますね。
どんな顔型にも似合うボブがある

――ボブをオーダーするお客さまは、どんな悩みが多いですか?
一番目立つのは毛量に関する悩みです。パツンと切ったときに「おにぎりみたいにボリュームが出てしまう」「ヘルメットみたいになってしまう」のを心配なさっているケースが多いですね。その場合は少し長さを残したり量感を調整したりして仕上げます。
次に、ボブにしてみたいけれど、「自分に似合う長さがわからない」「ボブが似合わないんじゃないか」という不安をもっている方が多いです。でも、どんな顔の形でもかわいく見える長さがあるだけで、ボブが似合わない顔型なんてありません。
どこの長さを残すのか、量感をどうするのか、そうした微調整を重ねてお顔に似合わせていけばいいだけのことで、それこそが美容師の仕事です。ただ、うねりが強めの髪質の場合は乾かしたときに広がってスタイリングが必要になるので、それは先にお伝えしています。

――逆に、ボリュームがなくて困っている方へのアドバイスはありますか?
トップにボリュームを出したいときは、根元を立ち上げるように乾かすことが一番効果的です。その他は、軽めのシャンプーを使うことも大事ですね。保湿力が高いものは避けた方がいいです。
「モイスチャー」や「モイスト」などはもってのほかで、「しっとり」よりも「さらさら」タイプ、スムース系を選ぶとボリュームが出やすいです。

あとは、油分が頭皮に蓄積されて固まっていると毛動きが出にくくなるので、シャンプーのときに頭皮をブラッシングするのもいいですよ。ちょっと意識するとかなり変わると思うので、ぜひ試してみていただきたいです。


――最後に、ボブをオーダーするときの注意事項を教えてください。
間違いやすい髪型の代表格に「ショートボブ」があります。これは、丸みをつけるために段が入ったスタイルでなので、ボブとは言えません。
ボブは、上から生えている髪の毛も下から生えてる髪の毛も全部同じ長さ、ワンレングスのスタイルです。ショートボブは、“ボブ寄りのショート”ぐらいに捉えておくといいですね。

「ショートにしたい」とおっしゃるお客さまに希望の画像を見せてもらうと、ボブだったということがときどきあります。肩より上の髪型はすべてショートだと認識している方が多いんです。ショートとボブの違いを知ったうえで、美容師さんに画像を確認してもらってからオーダーするといいと思います。
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